いっときもじっとしていられない幼いわが子に向かって、「ちゃんとしなさい」と口走る。ちゃんとできるはずもないことは分かっているのに。それでも「ちゃんとして!」と、自分の都合を押し付ける。何かにつけて「ちゃんと」が口をついて出てくる。その度に、自分の口調が親にそっくりなことに苦笑してしてしまう。最近は「ちゃんと親孝行しなくちゃ……」と、思わずつぶやいている。
親という立場になるまでは気にも留めなかったのだが、私の親はそれが口癖になるほど子供の教育に一生懸命だったようだ。ちゃんとした人に育つようにとの願いを込めて言っていたのだろう。けれど、自分自身がちゃんと育ったかどうかは怪しい。残念ながら、私は親の思いに素直に添うような親孝行な子ではなかった。ただ、悲しいほど必死だったその時の親の心情が、今では少し分かるような気がする。そして今頃やっと、これまで知らずにいた当時の親の事情や気持ちを、汲み取れるようになってきた。
時を経て、離れて暮らす親に対する思いやりの気持ちを、自然に抱けるようになった。今は、子として親の心に寄り添える在り方がもっともっとできればと思っている。近況報告だけになっていた電話での会話も、声と一緒に気持ちまで聴かせてもらおうと心掛ければ、少しは親孝行になるのかもしれない。ちゃんと……とは、まだまだとてもいかないけれど。
ちゃんとしなくちゃ
ペンネーム : 鉢かつぎ