ある休日の朝、おしゃれなお店でモーニングセットを頂いた時のことです。紅茶を口にした主人がひとこと、「味がない」。見るとレモンティーを頼んだ主人のカップにはレモンがなく、母のカップに2片のレモンが浮かんでいました。運んできた店員さんが「お二人分のレモンです」と言ったのを、母は聞き取れなかったようでした。私の母は、身の回りのことから食事の用意まで何でも自分ですることができ、周りの皆さんからも「とても80歳には見えない」と言われます。特別、耳が遠い訳ではありませんが、不意に話しかけられると聞き落とすすことがあるのだなあ……ということを思わせられた出来事でした。
別のある日、話の前置きとして「健康診断のことだけど」と母に言うと、「えっ?」と聞き返してきたので、母には聞く準備ができていなかったのだなあと思いました。「言いたい」というこちらの思いが中心になっていたのですね。「今から話しますよ」の代わりに、ゆっくり間を取って「あ・ の・ ね」と声をかけて、相手が聞く気持ちになってから本題を話し始めたらいいのだと思いました。
とは言うものの、せっかちな私はつい用件から切り出してしまい、今日もまた、母に聞き返されています。母の「えっ?」は、私のゆとりや優しさのなさを教えてくれているのですが、そのたびにいつも胸にチクッとささります。
年齢を重ねた親と子の会話は、時に上下が逆転してしまうことがあるようです。こちらがひと工夫することによって、いつまでもよい親子関係を築いていけたらと思います。
ゆとりをもって
ペンネーム : 美猿