花ちゃんは、小さいころから音楽に合わせて踊ることが大好きでした。1歳のころにはすでに、テレビから流れるはやりの曲にあわせて、短い手足を動かし、小さなお尻を振って器用に踊っていました。その姿は、まるで子熊のぬいぐるみのようでとてもかわいかったのです。
その花ちゃんが小学生になり、近所のお姉さんたちと一緒にダンスの教室に通い始めました。とにかく踊ることが楽しそうで、お父さんもお母さんもとても喜んでいました。ところが、初めての発表会の練習が始まってからのことです。 練習の前夜になるとシクシク泣くようになったのです。あれだけ踊ることが大好きで、発表会も楽しみに「がんばる」とはりきっていたのに……。どうしてなのか理由が分からないお母さんは、花ちゃんに何度も理由を尋ねてみたのです。でも、本人も何がいやなのかがよく分からず、ただ、練習に行きたくない、練習のことを考えると悲しくなってしまうということでした。そんな姿に、「がんばれ、がんばれ、あなたなら大丈夫!」と明るく励ますしかないお母さんでした。
このことを、お父さんに相談すると、「一度練習を見に行ってみたら」と言われたのです。さっそく、ダンス教室の先生に許可をもらって練習を見学させてもらいました。発表会では、グループで演技をするのですが、おおぜいのお姉さんたちばかりで一年生は花ちゃん一人。お姉さんたちの踊りについていこうとするけれど、先生の指導のスピードが早くて、なかなかついていけないのです。それでも歯を食いしばって必死に踊っている花ちゃんの姿が、そこにありました。花ちゃんにしてみれば、すでに必死になってがんばっていたのです。それなのになおも「がんばれ」と花ちゃんに言い続けてきたお母さんは、申し訳なかったような複雑な気持ちになりました。楽しいダンスが辛いダンスになっていたのです。 花ちゃんの泣きたい気持ちが、この練習の姿を見て分かったように思えました。
子供には子供なりの、今直面している小さな社会があり周囲との関係があるものです。そして、そこで何かを学び成長していくのです。そういう中で、子供の気持ちを正しく理解し、成長へ向けてちょうどよい言葉を掛けてあげる、この繰り返しが育児において大切なことです。時には、子供の世界をその場に行ってちゃんと見て、体感することも必要なのだと思います。
花ちゃんのお母さんは、それからはまず、よくがんばっていることを認めてあげて、しっかり言葉に出してほめてあげるようにしました。その上で、練習の方法を一緒になって考え、一つ一つ親子で協力し合って、いろいろなことを乗り越えていくようになりました。
がんばれだけでは…
ペンネーム : ひまわり