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愛はコミュニケーション

『たった一言「ありがとう」』

ペンネーム : くじら

 私が物心ついた時の父は怖い存在だった。何も言わなくても「感じ取れ」という雰囲気を漂わせ、母はいつも「父が何をしてほしいのか」を感じ取るのに必死……のように見えた。家族の中でも、父の機嫌を損ねないことが最重要課題であり、ホームドラマにあるような和気あいあいの家族とはほど遠く、家族一同、父が好むような静まり返った食卓を囲む毎日だった。

 ある時、母が反乱を起こした。父に対する不満を並べ立てた。すると、父は小学生の私に聞いた。「お父さんのどこがいけないの?」と。私はフッと授かった言葉を口にした。「お父さんは、お母さんが何かしてくれても『ありがとう』って言わないよね。『ありがとう』って言えば良いんだよ。」父は「そんなこと……言ってないか」と言った。

 私はそれまで、父の『ありがとう』という言葉を聞いたことがなかった。「親しき仲にも礼儀あり」である。それからの父は、子供の私から見てもガラリと変わった。何かをするたび、何かを言うたびに「ありがとう」と口にするようになった。静かだった食卓は、それはにぎやかになり、父が機嫌を損ねる回数も劇的に減っていった。父の「ありがとう」から、家族の在り方が大きく変わっていった。

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