『新しい日に再起動』
ペンネーム:鉢かつぎ
今回の新型コロナでの自宅待機は長かった。 職場へ向かう時、いつも足早に通り過ぎていた空地の景色が一変していた。シロツメ草の花が一斉に咲いていたのだ。
まるで一晩のうちに、地面から湧き上がって咲いたかのように目に映った。 うやうやしく重なり合った無数の葉に守られて、育まれていたシロツメ草の花の群れ。空に向かってすっくと立ち上がり、「おはよう」と大合唱で挨拶をしてくれているようだった。マスクの下で少しだけ笑みがこぼれた。家を出た時より気持ち足取りが軽くなっている。
前からずっとここに生えていたのに気付いていなかった。 自宅と職場を往復するだけで、季節の移り変わりを感じる余裕すらなく、日々変化し続けている世界や自分自身の気持ちにも気付けなくなっていた。去年も咲いていたはずなのに、ずっとここに隠れていただろう四つ葉も、何も見えていなかった。
出勤後一番にパソコンを立ち上げる。聞き慣れた起動音が響き、自分も一緒に更新されたような気分になる。パーティションの向こう側から、同僚がひょっこり顔を出して手を振ったので、こちらも両手を振って「おはよう」と久しぶりに挨拶を交した。
いつも元気で絶好調とはいかなくても、気の持ち方一つで新しい自分に更新可能。今日という日に心楽しく参加すれば、いつでも再起動できるものなのだろう。自分次第で、見えなかった四つ葉のクローバーだって見つかるかもしれない。