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『父が最後に教えてくれたこと』

挿絵

             ペンネーム:悠

 一昨年、父が73歳で他界しました。

 妹から「危篤状態」との連絡があり、すぐに実家に向かいました。3年前から胃がんを患い、帰省の度にだんだんと弱っていく父の姿を見て、いつかこの日が来ることはうすうす感じて覚悟していました。

 私が駆けつけてから3時間。家族に見守られる中、父は静かに息を引き取りました。そんな時にふと「一番身近な人でも別れがくるんだなぁ」としみじみと感じてきたのと同時に、「今、出会っている人ともいつか必ず別れがある。それがあるからこそ、今、出会っている人と大切に接していきなさい」と、父から教えられた気持ちになりました。

 それから何か月後かの仕事先で、私が担当のお客様から一方的に怒られる出来事がありました。確かに会社の方針が変わったこともあり、そのお客様が言われることも理解できるのですが、将来的にはお客様にとっても良いことになると思っておりました。それでも、その思いはお客様には伝わらず、一方的にお叱りを頂き、「私はあなたが嫌いです」とまで言われてしまいました。自分の中で「申し訳ない」という気持ちと、「そんなに嫌ならやめていただいても構わない」という気持ちが入り交ざっていました。その時に父との別れ際の顔が思い浮かびました。そして「たとえ相手が私のことを嫌いになられても、私は絶対にあきらめず精いっぱい接しよう」と、改めて決意しました。

挿画2 最終的にはお客様の希望に添うことができず、何とも言えない苦い思いが残りました。けれども最近になって、その方から「私の希望通りにはならなかったけど、会社の方針だから仕方がありません。最後まで親切に私の話を聞いてくれてありがとう。あなたが私の担当で本当に良かった」と予想もしなかった言葉を頂きました。父の笑顔がふっと思い出された瞬間でした。

 心を変えることのできた、人生の転機と前進、それは父との別れが作ってくれたような気がします。

  
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