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『親の心子知らず』

ペンネーム:ぽんこ

 まだ私が若かりしころ。結婚前の主人とデートして、和食を食べた時のこと。
 主人「このお吸い物おいしいね。だしはカツオだねー」
 私「・・・・・」。心の中では(ひえ〜〜私にはさっぱり分からん)
 私(さりげなく)「なんで分かるんですか???」
 主人「え?分からないの??」

挿画01 この一件で、主人と結婚するのがとても不安になった。何せ私の一番の得意料理は冷やっこ。みそ汁すらろくに作れないし、だしが煮干しなんだか、カツオなんだか分かるわけはない。味は本には書いてない。というわけで、結婚が決まっていた私は、花嫁修業をしなければと痛感していた。そんな時偶然にも知り合いの方の紹介で、住み込みの社員を捜している女性の社長さんに出会った。条件がピッタリ。花嫁修業のつもりで期間を決めて、早速入社。

 今は第2の母と呼んでいるこの社長はとても料理が上手だった。私が夕飯を作って「おいしくありませんけど、どうぞ」(謙遜ではなく、本当にまずかった)と出した。そうしたらすごく叱られた。「作った本人がまずいなと思って出して、相手さんにおいしく召し上がっていただけるはずないでしょ」と。だって味が分からないのだからどうしようもない。だからだろうか、それからは日本橋などにある美味しいお店によく連れて行って下さった。

 社長はボランティア精神の固まりのような人で、社長宅には常に誰かが来て、いつもにぎやかだった。そんな中、会社のお得意さんを自宅に呼んで、お料理をお出しすることもしばしばあった。しかし、料理がきらいな私は苦痛で苦痛で。とうとうストライキを起こしてしまった。「私には接待は無理です」。これを境に自宅でのお得意さんへのお接待はぴたりとなくなってしまった。その後反省して何度か、またやらせて下さいとお願いしても、「一度言った言葉は消えません」と厳しい一言。

 今思えば、社長は「駄目なこの子を何とかしなければ」という親心だったのだろう。駄目な子ほどかわいいって言うし・・・。

挿画2 その後、多少料理も覚え無事ゴールイン。カツオと煮干しの違いの分かる主人の忍耐のお陰で、人並みには料理も作れるようになった。
 社長にはいろいろな事を教わった(ありがたいことに修業期間が長かったので)。しかし、若気の至りでいいかげんだった。もっと真剣に取り組んでいたら、と今さらのように反省。

 そしてあの時ストライキを起こしていなければ、今ごろは一流料亭並みの料理で家族や友達を喜ばせることができたかも知れない。実に惜しいことをした。
 まさに親の心子知らずである。(嫁入り前のわが娘たちよ。よ〜く聞いておけ)。だけどまあ、今からだ〜。これからだ〜。

  
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