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楽しむ力

おばちゃん事務員の心意気

ペンネーム : スイトピー

 友人のSさんから聞いた話。Sさんは40代の後半に入ってから会社勤めを始めた。パート採用だったけれど、毎日30分早く事務所に行き、玄関やトイレをきれいに掃除した。花を飾るいいスペースがあったので、習い始めた華道の材料を事務所に持っていき、その花を活けた。そこの会長さんがきれいになっていく事務所を見てとても喜ばれた。しばらくして正社員に昇格した。


 9年前に現在の事務所に変わったときも、毎日30分早く出社して、事務所内の掃除をした。特に台所が汚れていたので、ピッカピカに磨き上げた。すると支店長が喜ばれて台所をもっと使いやすく工夫してくれるようになった。道端に咲いている季節の花をガラスのコップに入れて、台所や冷蔵庫の上に飾っていると、「涼しげだね」と言って喜んでくださる社員もいた。会社の広報誌に「パートのSさんがいつもきれいに掃除をしてくれています。『GOOD JOB(いい仕事をありがとう!)賞』を差し上げます」と大きく載せてくださったこともある。

 そんなSさんに近況を聞いて見た。「40代で事務仕事を始めることになって、若い人にはパソコンでも事務でもとてもかなわないじゃない。自分にできることと言えば、事務所内をきれいにして、気持ちよい仕事場にすることぐらい。それに60歳を越えたこの年で、今でも働かせてもらっているのはほんとうにありがたいことでしょ。

 最近若い女子社員が、タオルの掛け方を見て、また台所の流しがきれいになっているのを見て、『これはSさんがしたんだね』って言っているのを聞いたのよ。それって、掃除してきれいにすることにも、私が表わされているんだよね。とてもうれしいことだったし、掃除をすることはそんなに特別なことではないのだけれど、ずーっと頑張ってやっていると、知らない間にそのことを認めてもらえるんだなあって思ったのよ」

Sさんの30分早く出社してのエピソードは、まだまだ続いたが、おばちゃん 事務員の心意気一つ、そう、掃除一つからでも人を感動させることができる のだ 、と教わった。

 


マキちゃん流子育て法

ペンネーム : 美猿

 同級生のマキちゃんは、ご主人の会社があるシンガポールに在住中に、年子で三人の子供を育てました。子供が小さいころは、抱っこするにも手をつなぐにもママの手は2本、どうしたって手が足りません。自宅は高層マンション、もしも火事が起きたらエレベーターは使えません。仕事で帰りの遅いパパは当てにできないので、毎晩3人の子供と階段を降りることをシミュレーションしてからでなければ眠れなかった、と言います。

 そんな彼女は、歩けるようになった3人の子供たちとは手をつながず、ママが先頭を歩いて3人に後からついてこさせる、という方法をとりました。しばらく歩くと末っ子が疲れて座り込むので、上の2人がママのところに伝えに来ます。ママは「じゃあ、手をつないであげて」と言って、上の2人が末っ子と手をつないでママの後を歩きます。ママが買い物をしている間は、3人で仲良く遊んでいますが、ママの買い物が終ると、3人のうち誰かが気付いて、「ママが行くよ」と声を掛けて3人でママの後を追うのだそうです。

 ある時、3家族で海水浴に行きました。他の2家族の子供たちは入れ代わり立ち代わり「おなかがすいた」「のどが渇いた」とやって来るので、お母さんたちは暑い砂浜と店を行ったり来たりで頭痛がするほどくたびれていましたが、マキちゃんの子供たちは腹時計がついているのか、12時と3時に3人そろってやってくるので、マキちゃんは疲れもせずに、海水浴を楽しんだとのこと。厳しい環境でのマキちゃん流の子育て法は、どうやら兄弟姉妹が協力し合い、親を困らせないという在り方を子供たちに身に付けさせたようです。

 現在は、日本に住むお子さんの教育やご両親の介護、シンガポールのご主人のお世話などで二国間を飛び回りながらも、同窓会の幹事などを積極的に務めています。マキちゃん曰く「工夫すれば何とでもなるわよ」 と。


お客様は神様です!

ペンネーム : うなぎいぬ

 私の主人は馬鹿が付くほどまじめで親切な八百屋の店主。とにかく「お客様は神様です!」が口癖で、お客様が頼まれることは何でも「ハイヨー」と応える人だった。

 ある日こと、配達から帰って来るなり「この野菜、何ていう並べ方だ! 何度言ったら覚えるんだ!」と激怒。「あなたの言ったとおりに並べたんだけど」と言ったが、主人は一から並べ替えてしまった。こんなことがちょくちょくあったので、「今日はもうやってられない」という気持ちで家に帰り、むしゃくしゃするので気晴らしに友だちとランチに出掛けて愚痴を聞いてもらった。

 「朝から晩まで 頑張っているのにねえ=vと、受け止めてくれてはいたが、最後に「品物の並べ方のことでよくけんかしてるけど、ちゃんとご主人に聞いてやってるの?」と言われ、えっと思った。翌日、主人が品物を並べるのを横目で見ていたら、「今日は寒いから鍋かな?」と、とても楽しそうだった。そうだった、主人からいつも「お客さんのことを考えながら並べるんだ!」と言われていた! いつからかどなられるのがいやで、「言われるとおりに、流れ作業のようにやっていれば機嫌がいいから!」という気持ちでやっていたな≠ニがく然とした。それからは、主人に聞きながら、季節の野菜のレシピを並べたり、少し時間がたった野菜をお惣菜にして売ってみたりと、相変わらず口げんかをしながらも、あの手この手と工夫したおかげで、私もどんどん楽しくなってきた。

 普段の生活の中で、楽しくないな!と思うことがあったら、いつもと違う角度から見たり聞いたりしながら、ちょっと工夫して違う手段でやってみると、意外と楽しくなるためのきっかけが見えてくることを実感した、八百屋の女将でした。


イラッと君とにらめっこ

ペンネーム : 鉢かづき

 『気持ち』のように目に見えない、形のないものに向き合うのは難しい。そこで、ゆるキャラのような形を自分の中で設定して、面白がってみるのも一つの手段。例えば……・br>ィ
 忙しい朝、頻出度No.1の『イラッと君』。放っておくと勝手に増殖する困ったヤツ。パジャマのままでテレビに見入っているわが子が視界に入り、軽くイラッとする。靴下を履きかけたままの姿は、まるでこの子の周りだけ時間が間延びしているみたい。気持ちが時刻を追いかけている最中。パパに「アレ、どこだっけ、アレ知らない?」なんて呼び止められると、さらにイライラがダブルになる。アレの正体が不明のまま、探索に付き合うことに。思わぬロスタイムに、眉間の裏側でイラッと君、急増中(眉間のシワも急増中!?)。

 こんなトンデモナイことになる前に、イラッと君を自分の中に発見したら「に≠轤゚っこし≠ワしょう♪」。どんな時、どんなふうに現れるのか、意識してみると、これが意外に面白い。この場合は笑うと勝ち。都合を付けることに気持ちが行き過ぎて、他の事に気が回らなくなっている自分を見つけて、ちょっと滑稽で笑えたら、不思議とイライラも消えていく。気持ちが不自由になっている時、その隙をついて現れるイラッと君。今日もイラッと君を見つけたら、にらめっこして笑っちゃおう!