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『R君との思い出』

ペンネーム:わらびもち

挿画02 私の学生時代で忘れられないほどの幸せに感じた出来事は、情緒障害のあるお子さんR君の家庭教師をさせていただいたときのことです。

 1年が過ぎたころいつものように水道から流れる水をじっと見ていたR君が、ふと私と目が合った瞬間、「スキ、スキ、スキ!」と言って、満面の笑顔で私に抱きついてきました。それまで目を合わせるということがなく、ただこちら側が一方的に、R君を受け入れることだけを考えて行動していただけに、“やっと受け入れてもらえたんだ”とうれしくてうれしくて、思わずぎゅーと抱き締めました。その瞬間の感動と喜びははいつまでたっても忘れることはできません。

挿画02 それからはR君といろんなことができるようになり、散歩の道すがら「R君は何の歌が好き?」という問いかけに「かごめの水兵さん」(正しくはかもめの水兵さん)と答えてくれました。初めての会話がうれしくてうれしくて、「かもめの水兵さん」を大きな声で何度も歌いながら帰ったことでした。

 その後、R君一家は引っ越ししました。別れるまでの約2年間、R君にはたくさんの幸せな思い出を頂きました。それから35年、R君とは会うことはなかったのですが、元気にしているということを聞いています。あの頃の月日を思い浮かべる時間が、私の内にポッとうれしく幸せな光をともしてくれます。R君ありがとう。ずっとお元気でいてください。

  
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