『恩師との出会い…』 ペンネーム:ノータイム それは僕が大学2年生のときだった。思い描いていた学生生活と実際とのギャップに苦悩する日々を送っていた。大学にはほとんど行かず、アルバイトに明け暮れ、夜通し遊び歩く毎日を過ごしていた。友人たちは「授業に出てこいよ」などと心配して声をかけてくれたが、僕は突っ張って、余計にアルバイトと遊びに精を出すようになっていた。こんな生活を送っていたら自分がダメになってしまうという不安をかき消すように…。 「荷物をまとめてうちに来い」 非常に強い口調で…。父の古い友人からだった。その声の調べに何か温かいものを感じた僕は、なぜか素直に――それまで生きてきた中で一番の素直な瞬間だった――その言葉に従うことにした。ご先祖様が後押しをしてくれたようにも感じた。 かくして他人の家での生活が始まったわけだが、その声のあるじはとても親切で、面倒見がよかった。と今だから言えるのだが…。一部屋が僕の新居となり、三度三度の食事にもありつけた。この食事がめっちゃおいしかった。外食続きにうんざりしていたところにとびきりの家庭料理だ。授業のある日はお弁当まで用意してくれた。もちろん、実際に作ってくれたのはあるじの夫人である。 あるじの親切ぶりはまだまだ続く。頼みもしないのに僕の留守中に部屋を掃除する。毎朝モーニングコールならぬ“モーニングたたき起こし”。そして何よりも“物の考え方”。あるじは数々の“物の考え方”を僕にくれた。「相手は変わらない、自分が変わるんだ」「喜んで犠牲になればいいじゃないか」「動きの中で知恵は授かる」などなど…。 人生の恩師とも言うべき人が、今の僕の上司である。 |